彼女は仕事が終わると、駅前のカフェでコーヒーを飲むことが習慣になっていた。
水曜日の夕方、いつものようにカフェに入ると、顔なじみのウエイトレスが、いつものように幸せそうな微笑みで応対してくれた。同じテーブルと幸せそうなウエイトレス。そんな光景は何年も続いていた。
何年も通っているにもかかわらず、殆ど店内で会話を持った事の無い女は、何故かその日、そのウェイトレスに質問をしてみた。
「どうしていつも幸せそうなのですか?」
ウェイトレスは、彼女の質問に一瞬戸惑いながら、嬉しそうな表情で教えてくれた。生活は豊かとは言えないが、愛する家族がいて、子供はもちろんの事、ご主人もずっと愛し続けてているようだ。
帰りの電車の中、彼女はこれまでの自分の人生を振り返っていた。
結婚して子供も授かったが、その後離婚。子供を引き取り、元々キャリアを持つ職場へ復帰をする。それ以来、他人を愛する心に蓋をし、がむしゃらに働いてきた。給料もそこそこ貰い、子供にも、金銭的には不自由させる事は無く暮らしていた。
彼女は自分に質問を向けてみた。「私は心から愛した人が、今まで居ただろうか?」直ぐに答えは出てこなかったが、電車のドアの脇にある鏡が、別の回答を促してくれた。
口角の下がった口、手入れを怠った髪、朝にしたきりで、直す事の無い化粧の顔がそこに存在した。ただ、女は一瞬落胆をしたが、直ぐに思い直す事が出来た。
「自分から愛してみよう」そして、電車のドアが開き、改札を抜けると、手に持ったバッグを、360度回転させながら走りだす姿があった。
次の日から、女はその喫茶店には行かなくなった。数年前から「自分を愛する」というメッセージを無意識に伝え続けていた、今まで彼女に接していたウェイトレスの役目は終わったのだ。
ウェイトレスは「いつも来ていた女の人、来なくなっちゃったね・・・」と店内のスタッフと話をしていた。あの日、自分と電車の鏡による絶妙なコンビネーションで、一人の女性を囲いから解き放った功績を、彼女は知る由も無い。
ウェイトレスは今日も微笑みながら、客にコーヒーと幸せを運んでいる。
いつも幸せを願っています
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今日も一日おたのしみさまでした。
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