桜とおじいさん

 

会社の近くに公園と池がある。

錦鯉が優雅に泳いでいたりして、
ぶらりと散歩をするのに、ちょうど良い所である。

普段は、人影まばらな風景ですが、
間もなくすると、桜が池の周りを取り囲み、
満席の宴会場と化したりする。（昨年からは、コロナの関係で禁止となっています）

夏になると、昆虫や水中の生物を求めて、
子供達が小さな冒険を始める。

秋には、公園のベンチで、
愛をささやき合う若者の、微笑ましい姿がある。

自然も、そこに集まる人も、
四季折々の、姿を見せてくれる。

 

幼き頃、
この池のすぐ近くに、住まいがあった。

小学生だった私は、
つり禁止のこの池で、隠れてよく釣りをした。

何処からとも無く、
怒り顔のおじいさんが現われ、怒声と共に私たちを捕まえようとした。

「くそじじい～！」と言いながら、
僕らは釣竿と道具を抱え、そのおじいさんから逃げていた。

釣りと悪者にされたおじいさんとのスリルを、
存分に楽しんでいた。

 

社会人になって10年ほど経って、
そのおじいさんは、天国に召されたことを噂で聞いた。

おじいさんは亡くなる前まで、その池を、
全くの奉仕で、毎日美化に努めて下さっていた事を、
同時に聞かされた。

いっときは、その池と公園を取り壊す計画もあったそうだが、
そのおじいさんをはじめ、様々な方々の活動のおかげで今も存在し、
我々はその恩恵を受け続けている。

当時とは全く違う見解を聞かされて、
おじいさんに対して大変申し訳なく感じた。

暖かくなり、今年も花見のシーズンが徐々に近づいてきた。

車で通るその池と桜を見ると、
毎年おじいさんの怒った顔が浮かんでくる。

それと同時に、ちょっぴり切なさが蘇ってきたりする。